■旅行記 ”日本一周旅行” 36日目 : 紀伊半島  (1996.09.12 Thu)

 学生と違ってサラリーマンはもちろん今日も出勤である。旦那さんがお出かけだというのにこっちだけのんびりというわけにもいかないので、同じ頃に出発した。3歳の娘さんはまだ幼稚園には行ってないので最後はお母さんと二人で照れくさそうに見送ってくれた。
 こんなに遠回りする事も無いのだが久し振りにいとこにも会えたことだし、これからはもうただただ帰るだけ、クルージングというか、惰性で走りたいといった気分ではあったが、まだ一つやり残していることがあるので、そればかりが気になっていた。とは言えそれも、この紀伊半島を周った後でのことである。
 しかしその紀伊半島も、一日あれば周れてしまうのかと思いつつ堺市を後にしたが、大阪ほどの渋滞はないのでそれなりに距離を稼いでいるものの、気分的に全然進んだ気がしないのである。
 確かに、海岸の地形が入り組んでいるため、地図から想像するより走る距離が実際には長いし、そもそも紀伊半島自体を過小評価していた。
 東北を走っているときもそうだったが、有名な都市が無いとその距離感が掴めない感じがする。東海道ほどメジャーな都市が連なっているとそれらがある距離を保ち独立した存在なので距離感が湧くけれど、そうでないところは何となくすぐ次の都市が近いような錯覚に陥ってしまうのは僕だけなのだろうか。もちろんこれは僕の知識不足というか単なる感覚や偏見のせいだろうが、特にこの紀伊半島には縁もゆかりも無ければ予備知識も無いので走っても走っても進まないといった気持ちで焦りさえ覚えてしまうほどだった。
 後から落ち着いて日本地図を覗いてみれば、千葉の房総半島よりはるかに大きいし、志摩半島を含めれば、下手をすると四国にも匹敵するといった存在感があるのに失礼ながらも軽視してしまっていた。
 往来が少ないとは言え、崖が迫っている曲がりくねった海岸の道は車を抜いて走ることは出来ず、そんなに飛ばすことも出来ない。そんなわけで白浜に着いたのでさえ昼を過ぎていた。
 しかし白浜では昼の休憩を含み、少しだけのんびりした。せっかくだから海水浴でもしようかと思ったが、後の事を考えるとさすがにそれは面倒なのでやめておいたが、真っ白な砂の上に座って、ぼうっと周りの景色を見ていた。雨こそ降ってはいなかったが天気が良くなくて少し涼しいくらいであった。
 それにしてもいつも思うのだが、リゾート地にやってきても、自分がその場にいるのにもかかわらず、自分だけ取り残されたような気分になるのはなぜなのだろうか。海辺の砂浜にいるのに革靴にジーンズ姿だからだろうか。それとも単に独り者が少ないからだろうか。風景を一眼レフのカメラで撮ったりしていても、なんとなく寂しい気分になってくる。
 矛盾しているけれど、こんな時は「早くこの旅が終わればいい」などと思ってしまうこともある。一人でいれば話し相手が欲しいと思うし、それに慣れてしまえば今度は一人になりたいと思ったり、つまり天の邪鬼なだけなのだろう。
 どれくらいいたか覚えていないが、それでも一時間以上いたのだろうか。何となくこの先の事を考えているうちにあっという間に時間が経ってしまった気がする。しかし確かに白浜は別世界という感じがしてその違和感は十分に堪能できた。
 さて、あとはひたすら走るのみである。雲が厚く垂れ込めて、辺りはひどく暗いけれど、今日はどこまで走れるだろうか、そればかり考えてただひたすら海岸沿いの国道を突き進んだ。
 そのうち暗くなってきて、いよいよどこに泊まるかを思案する頃になった。鳥羽市まで行けるかと頑張っていたけれど、民家もまばらな山奥を走っているときに急に大雨が降ってきた。もう既に暗いのもあるし、このまま泊まる場所を探して走っていたら夜にはなるしずぶ濡れにはなるしで、取り敢えず目に入った屋根付きのバス停で雨宿りをした。
 しかししばらく待ってみても雨が弱まることはなかった。緩やかな下り坂の途中にあるこの屋根付きのバス停は、たかが3、4人が座れるベンチを覆うように背の低いひさしがついているだけだったが、今の僕にはそれだけでもありがたかった。
 結局、その場で真っ暗になってしまった。そして何気にバスの時刻表を見ると、どうやら終バスは終わっているようであった。そして次に始発のバスの時間を見てみた。確かに始発は早いけれど、それまではここにはバスも人も来ないということになる。
 よほど疲れていたのだろう。結局そのバス停のひさしの下にテントの半分を無理矢理入れるような形でテントを張ってしまった。そのままベンチに寝てもいいかなとも思ったが、風や雨しぶきは防げないし、やはり横になりたかったのである。もちろん誰かが来たら注意されるだろうけれど、されたらされたでその時なんとかすればいいと思った。テントの半分は雨に打たれるけれども傾斜になっているのもあって雨も溜まらず、出来る限り屋根のある側にマットを敷いてその上でシュラフに包まって横になった。
 なんとも居心地の悪い夜になってしまったが、テント生活もあと数日で終わるから辛抱だ。
 



【走行距離】 本日:432km / 合計:9,359km
大阪府堺市 〜 三重県度会郡南島町(ワタライグンナントウチョウ)(現:南伊勢町)

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