■旅行記 ”日本一周旅行”  7日目 : 霧の道南  (1996.08.14 Wed)

 昨夜も随分遅くまで話し込んでしまった。僕は北海道というのがどういうところで、そこでの生活というものがどんなものかを聞きたかったし、これから僕が進む道はどんなものなのかももちろん聞いておきたかったからだ。やはりみんなが口を揃えて言うのは「海岸もいいけれど、やはり北海道らしいと言えば内陸かな」ということだった。北海道だけの旅行なら道内を縦横無尽に走りたいところだが、旅行はまだまだ始まったばかりなのにもう一週間も経ってしまっているので、残念だけれど海岸をなぞる程度にしか走らないことにしていた。
 起床したのは9時で、それから娘さんがお孫さんたちを連れてここに顔を出すというので、大勢の見送りをありがたく受けてから出発したのはちょうどお昼ごろだった。
 さあいよいよ、本当の北海道旅行の始まりだと、僕は随分と勇んでいた。天気も悪くないし、道路も広々としていて、ついつい気持ちよくスピードを上げてしまう。景色はもちろん文句なく、まだ海に出ていないので道の両側に緑の丘が広がり、今まで味わったことのない爽快感を覚えながら、機嫌よく走ることができた。
 しかし、苫小牧付近で海岸に出てしばらく走ると曇ってきて、やがて濃霧になった。せっかくの景色が見えないではないか。晴れている時は草の匂いや、時折通過する牧場特有のニオイがして、大自然をかみしめられたが、バイクで走っていると霧でも体が濡れたり、ヘルメットのバイザーが濡れて視界が悪くなったりする。そうなるとバイザーを上げて走らなければならなくなり、顔は濡れるし、速度は落とさなければならないのであまり周りに気を配れなくなってくる。そうなるとバイクで走るのはちょっと憂鬱に感じるものである。
 とにかく、ほとんど何も見えないので、ただひたすらに道路と、道路標識と、そして前にいる車に従って走ることになる。これは自動車とて変わらないだろうが、体もだいぶ冷えて、いい加減何か刺激がほしいというあたりで、ようやく襟裳岬に着いた。
 雨具を着ていたか着ていなかったかは今となっては忘れてしまったが、体が濡れてひどく寒かったことは覚えている。そして、襟裳岬に着いても、僕が目を引くようなものは誰かの歌にもあるように無かった。いや、「無かった」というよりは「見えなかった」と言った方が正しいかもしれない。霧のせいで、眼下の絶壁にぶつかる荒波だけしか見えず、海も、空ももやに包まれていた。ちょっと離れたところに売店らしきものがあったが、濡れた恰好で店内に入るのもなんとなく気が乗らず、自動販売機でホットココアを買って飲んだだけで、すぐに出発した。
 それからは北東に進路を変えてすすむわけだが、日が暮れそうになっても、日が暮れても、霧はやまなかった。とにかく距離を稼ぎたかったけれど、さすがに疲れたと同時に危ないと感じてテントを張る場所を探しながら走った。そう思ってからもしばらく走ったけれど、ちょうど広い川に差し掛かり、橋にも土手の遊歩道にも街灯があるのを見て、すぐに曲がって土手を少し走ってバイクを停めた。土手の中は広い公園や運動場になっていて、トイレも水もあるようだった。何より明かりがあるのでテントの準備も出来るし安全だろうと思った。
 テントの中で落ち着いたのはいいけれど、やっぱり体は濡れたままだった。正直、あまり気持ちの良いものではない。今日の疲れと昨夜の寝不足もあってすぐに横になったけれど、つい今朝までいた札幌を思い出してしまう。楽しかったなあ、快適だったなあと。そんな事をじくじく考えながら、いつの間にか眠りに就いた。

 
左:札幌から南下して海に出たところ。既に南方は雲がかかっているようにも見える。
右:襟裳岬からの景色。荒波しか見えなかった。


 
左:襟裳岬から走り出して、多少霧が晴れてきたが、この程度。
右:歴舟川にかかる橋のそばにテントを張った。正直ありがたかった。(翌朝撮影)


【走行距離】 本日:306km / 合計:1,647km
北海道札幌市南区 〜 同広尾郡大樹町

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